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「どこかお体お悪いのではありませんか?」



 私がそう訊ねても契約者はしばらくの間黙ってワインを飲んでいた。



 契約者は、急激に痩せた。



 その痩せ方は病的だった。



 基本的に私は契約者に何か訊ねるようなことはしないのだけれども、あまりのやつれようにプレイの際にムチを振るうのをためらわれる瞬間がある。



 けれども、最近の契約者はハードなプレイを求めるようになっていて、そのやせ衰えた身体に負担がかかるであろうプレイをすることに私は戸惑いを感じ始めていた。



 病身にムチを打つようなことは、さすがに気が引けた。



 プレイは健康だからこそ楽しめるものだ。



 どこか体に悪いところがあるのに無理してやるものじゃない。



 グラスを置いてやっと口を開いた契約者は、



「私は、末期ガンです」



とポツリと言った。



「え?」



 私は、病的に契約者が痩せていく過程を見ていたから、なんとなく予想はしてみたりもしていたのだけれども、本当に本人の口からそう聞かされてみたら呆然としてしまった。



「わかった時にはもう手術の出来ない箇所にまで転移していました。抗がん剤治療を一応勧められたのですが、完治はしないし体力奪われ余生を楽しむ時間を持てないかもしれないと聞いてやめにしました。病院では日常生活に問題のないように苦痛を取り除く処置だけしてもらっています」



 契約者のその言葉を聞いて私は訊きたくても訊けない言葉を飲みこんだ。



 私の表情から察したのだろう。



「あなたと契約した時、私はガン告知と同時に余命半年と宣告されていました。もうじき死ぬのならば人生の最後に好きなSMプレイを好みのタイプの女性ととことん楽しんで、思い残すことなく死んでいくつもりでいました。でも、好きなことをして楽しんでいたせいか少しばかり余命が延びてしまいました。人生最後のいい道楽になりましたよ」



 契約主はそう言って笑った。



 実に、晴れ晴れとした笑顔だった。



 これから死んでいく人間がこんな風に笑えるものなのだろうか?



 今月いっぱいでこの秘密の契約は終了する。



 でも、余命が延びたとはいってもいつ死んでもおかしくはない状態の人間に最後まで私はムチを振るうことが出来るのだろうか?



 黙りこんだままの私に、



「この先、私がこの部屋に来ることがなくても、あなたは今月末になったら出て行って下さい。迎えの者は手配してありますから、お持ちになりたい物全て持って行って下さい」



と契約者は言った。



 私は、何を思ったのやら自分でもよくわからないけれども、



「ボディピアスしても大丈夫ですか?」



と唐突にそう言ってしまった。



「大丈夫です。妻とはもう何年も前に離婚しましたし、子供もおりません。私が死んでも顔を見に来る者はいても身内に身体を見られる心配はありませんから……」



 私は、ピアッシングに必要な物を契約者に用意してもらうことにした。



 そして、



「ピアッシングの儀式をおこなうまでは、死ぬことは絶対に許さぬ!」



とプレイモードの女王の口調で私は命じた。



 契約者は、



「はい」



と答えて帰って行った。



 もしかしたら、契約者にとって次が最期のプレイになるかもしれない。



 私は必死で今出来る最高のプレイを考えた。



 冥土の土産に私が持たせてやれるのは、契約者が好きなSMプレイの想い出くらいしかない。



 私が心を鬼にして病身にムチ打ってやることが契約者の望んだ人生最後の道楽というものなら、最後まできっちりつきあってやるつもりでいた。



 契約者がやってくるまで不安ではあった。



 次は無いかもしれなかったから……。



 一週間後、契約者は部屋にやって来た。 



 最後のプレイ中にピアッシンングの儀式をした。



 たぶん、薬の副作用のせいもあるのだろう。



 ここのところずっと契約者のモノは完全に勃つことはない。



 それでも、ダラダラと半勃ち状態のその先から流れ出る分泌液は、SMプレイによって性的興奮を引き起こし身体が反応している証拠。



 私は、よく消毒してからその根元の部分に小さな金色のリングのピアスをつけてやった。



 そして、



「おまえは、永遠に私の奴隷よ!」



と宣言した。



 契約者は感涙した。



「ありがたき幸せにございます」



 涙を流しながらも幸せそうな顔をしていた。



 私が最期に持たせてあげられるのは、プレイの想い出とあの小さなピアス一つだけ。



 でも、そんなものでも冥土の土産になるのなら、迷うことなくムチを振るってやる。



 そうされることを契約者は望んでいるのだから、病身にムチ打つのは心が痛むなんて偽善者ぶってなんかはいられない。



 ムチ打って欲しがっている相手にムチを振るってやらない方が相手に失礼だ。



 いつもなら痕が残らぬ程度にしておくのに、私はその日は思いきりムチを振るった。



 痕が残るほどに……。



 その後、月末まで契約者がやって来ることはなく、私はこの部屋にやって来た日に持ってきた旅行カバンの中に最小限の物を詰めこんだ。



 ほとんどは契約者が買ってくれた下着。



 ボンデージやプレイ用のハイヒールは置いていく。



 たぶん、私はもうSMプレイはしないだろうから・・・…。



 最後の女王様になってやるつもりでいた。



 たかが半年の人生最後の道楽に庶民が宝くじでも当たらなければ手にすることのないような現金ポンと差し出すようなバカなM男のために女王様な私は封印する。



 私は、クローゼットの中の華やかなドレスには見向きもせず、黒のワンピースを着て迎えの者を待った。



 小型のノートパソコン以外はここに来てから買った物は持って行かない。



 持って行けるような物じゃあないし・・・…。



 パチンコ台やら通信カラオケやら、大量にあるSM雑誌やSM小説なんて持ち運べないし、持って行けたとしても私にはもういらない物だった。



 いつも通り目隠しされて車で移動中、



「どこまで行きましょうか?」



と運転手に訊かれた。



「新宿のHホテルまでお願いします」



 私はある高級ホテルの名を告げた。



 車が止まったら、



「着きました。もう、目隠しをお取りになってよろしいですよ。それと、これをお返ししておきます」



と言われて私は自分で目隠しをはずした。



 そしたら、契約中ずっと契約主に預けてあった私の携帯電話を運転手は渡してきた。



「ありがとう」



とだけ言って私は車を降りた。



 契約者の生死は私にはわからない。



 それでも、ひさしぶりに完全に自由になったからといって遊びまわるような気分にはなれなかった。



 私は、ハンドバッグ以外の荷物をベルボーイに渡してホテルに入って行った。



 渡した荷物は旅行カバンとオーダーメイドのプレイ用バッグのみ。



 あのプレイ用バッグの中には現金が詰まっている。



 半年間の契約金は、私の借金を支払い、買い物してもまだまだ残っている。



 私には帰る部屋がない。



 帰る家はあるけど、今はまだ帰りたくない。



 ここのホテルならアメニティもまともな物を用意しているし、ルームサービスのメニューも私好み。



 宿泊料金はお高いのだけれども、しばらく引きこもる気でいるから室内環境の良いところで寝泊りしたい。



 とりあえず、カネはあるからしばらく喪中モードで引きこもる。



 もっとも、まだ、ジョリーは死んではいないかもしれないけど……。



『ジョリー』というのは、私が契約者につけた奴隷名だ。



 ちなみに、『ジョリー』というのはアンジェリーナ・ジョリーのジョリーではなくて、昔テレビで見た外国ドラマの主人公の名犬の名をたまたま思い出してその名をつけた。



 私のジョリーはいい犬だった。



 愛犬として一生覚えていてあげるよ……ジョリー。



 枕に顔をうずめて泣いていた私は、一瞬ジョリーがいつも身にまとっていたウッディー系のバーバリーの香水の香りが香ったような気がして枕から顔をあげた。



 ジョリーがいるわけないのはわかっていた。



 ホテルの部屋の中には私以外誰もいない。



 でも、セクシーなその香りはまだその場に残っていた。



「おやすみ、ジョリー」



と私はかすれた声でつぶやいた。(Fin)


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