階段
「え?」
一学年下の妹が言った言葉に一瞬私はかたまった。
「だ~か~ら~、山木くんと江藤くんが屋上手前の階段のところでキスしてるの見たんだってば!」
頭がクラクラした。
二人とも私と同じクラスの男子だった。
「やっぱり、山木くん、ホモだった」
妹は先日、山木くんに告ったら何も言わずに走って逃げられたという振られ方をしていた。
今まで、山木くんがホモなんじゃないかという噂は女子の間で囁かれてはいたのだけれど確証はなかった。
けれど、あきらめきれずに追っかけしていたうちの妹は、とうとうこっそりと現場をのぞき見してしまった。
「その話、誰にも言ったらダメだからね!」
私は妹に口止めしながら「ホモじゃなくてゲイと言わないと失礼なんだよ」と言うのはやめておいた。
腐女子な友を持つ私もやっぱり腐女子な中学生だった。
BL本の貸し借りだけでは物足りず、友達と一緒に興味本位で表紙に薔薇と言う字が入っている有名なゲイ雑誌を買って来て開いて見たりもした。
見るんじゃなかった…というのが正直な感想。
なんだか思い描いていたものとは全然違った。
乙女のファンタジー撃沈。
絵空事と現実の違いを知った私も友達もBL本から卒業した。
でも、机の鍵のかかる引き出しの中にこっそりあの本を隠し持っていた私は時々読んでみたりしていた。
絵空事からは卒業したものの今度は本当のことを知りたくなっていたのだ。
最初に見た時のショックは大きかったけれども「いろんな人がいるもんだ」という目線で読んでいるうちに耐性がついてきた。
それでも、同級生がそうなんだと知ったらどうしたらいいものかとうろたえた。
とりあえず妹には口止めしたけど、どこから漏れるかわからないし今後も目撃者が出るかもしれない。
私は教室では普通に接していたけど、見てもいない二人のキスシーンが時々脳裏をよぎったりもしていた。
やっぱり、私は腐女子卒業しきれていないのだろうか?
江藤くんはガタイはいいけどわりと普通の男の子。
前は彼女いたけど今はフリーだ。
山木くんは背が高くてすらっと手足が長くて線の細い体つきをしていた。
顔も頭も小さいのにこぼれ落ちそうな大きな目をしていた。
顔の中で目ばかり目立つような印象だけど美少年の部類かな?私の好みではないけれど……。
けっこうもててるのに誰とも付き合わない。
いつも潤んだようなその瞳は時々せつなげな眼差しで江藤くんのことを見ている。
同じクラスにいるからついつい見てしまう。
見られていることに気がついたのだろうか?
山木くんは一瞬キツイ眼差しで私の方を振り返って見た。
すさまじい目つきをしていた。
心臓が止まるかと思った。
威嚇された私はすぐに目をそらした。
あれは男の目つきではなかった。
敵を威嚇している女豹か何かのような感じ。
時折見せる表情は妙に色っぽかったけれどもあれも男の色気などではなかった。
どちらかというと妖艶な女が浮かべるような笑みを薄い唇の端に浮かべていた。
なんでみんなはあれに気がつかないのだろう?
そう疑問に思うのと同時に私は気づかないで欲しいとも思っていた。
女子の間ではあいかわらず「山木くんはホモだ」という噂が流れていたけれども、噂はそれ以上発展することもなく卒業式を迎えた。
私は高校も山木くんと同じだったけれども、クラスは別だったからあまり会うことはなくなった。
たまに廊下を歩いている後姿を見かけたけれども、その背中には男らしさではなくて少女のような愛らしさやはかなげな雰囲気がただよっているような気がした。
高校卒業してからは誰も山木くんの消息を知らない。
たぶん、自分の居場所をみつけたのだろう。
もしかするともう「彼」ではなくなっているかもしれない彼は、彼なりの大人の階段を昇って行ったような気がしている。(Fin)
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(注)名前とかいろいろ変えてる部分はありますが、この小説はほとんどノンフィクションストーリーです。私の中学の同級生男子が校内の階段で男同士でキスしていたのを妹が目撃したというのは実話です。
https://ameblo.jp/kikuti-ran/entry-10112592894.html
一学年下の妹が言った言葉に一瞬私はかたまった。
「だ~か~ら~、山木くんと江藤くんが屋上手前の階段のところでキスしてるの見たんだってば!」
頭がクラクラした。
二人とも私と同じクラスの男子だった。
「やっぱり、山木くん、ホモだった」
妹は先日、山木くんに告ったら何も言わずに走って逃げられたという振られ方をしていた。
今まで、山木くんがホモなんじゃないかという噂は女子の間で囁かれてはいたのだけれど確証はなかった。
けれど、あきらめきれずに追っかけしていたうちの妹は、とうとうこっそりと現場をのぞき見してしまった。
「その話、誰にも言ったらダメだからね!」
私は妹に口止めしながら「ホモじゃなくてゲイと言わないと失礼なんだよ」と言うのはやめておいた。
腐女子な友を持つ私もやっぱり腐女子な中学生だった。
BL本の貸し借りだけでは物足りず、友達と一緒に興味本位で表紙に薔薇と言う字が入っている有名なゲイ雑誌を買って来て開いて見たりもした。
見るんじゃなかった…というのが正直な感想。
なんだか思い描いていたものとは全然違った。
乙女のファンタジー撃沈。
絵空事と現実の違いを知った私も友達もBL本から卒業した。
でも、机の鍵のかかる引き出しの中にこっそりあの本を隠し持っていた私は時々読んでみたりしていた。
絵空事からは卒業したものの今度は本当のことを知りたくなっていたのだ。
最初に見た時のショックは大きかったけれども「いろんな人がいるもんだ」という目線で読んでいるうちに耐性がついてきた。
それでも、同級生がそうなんだと知ったらどうしたらいいものかとうろたえた。
とりあえず妹には口止めしたけど、どこから漏れるかわからないし今後も目撃者が出るかもしれない。
私は教室では普通に接していたけど、見てもいない二人のキスシーンが時々脳裏をよぎったりもしていた。
やっぱり、私は腐女子卒業しきれていないのだろうか?
江藤くんはガタイはいいけどわりと普通の男の子。
前は彼女いたけど今はフリーだ。
山木くんは背が高くてすらっと手足が長くて線の細い体つきをしていた。
顔も頭も小さいのにこぼれ落ちそうな大きな目をしていた。
顔の中で目ばかり目立つような印象だけど美少年の部類かな?私の好みではないけれど……。
けっこうもててるのに誰とも付き合わない。
いつも潤んだようなその瞳は時々せつなげな眼差しで江藤くんのことを見ている。
同じクラスにいるからついつい見てしまう。
見られていることに気がついたのだろうか?
山木くんは一瞬キツイ眼差しで私の方を振り返って見た。
すさまじい目つきをしていた。
心臓が止まるかと思った。
威嚇された私はすぐに目をそらした。
あれは男の目つきではなかった。
敵を威嚇している女豹か何かのような感じ。
時折見せる表情は妙に色っぽかったけれどもあれも男の色気などではなかった。
どちらかというと妖艶な女が浮かべるような笑みを薄い唇の端に浮かべていた。
なんでみんなはあれに気がつかないのだろう?
そう疑問に思うのと同時に私は気づかないで欲しいとも思っていた。
女子の間ではあいかわらず「山木くんはホモだ」という噂が流れていたけれども、噂はそれ以上発展することもなく卒業式を迎えた。
私は高校も山木くんと同じだったけれども、クラスは別だったからあまり会うことはなくなった。
たまに廊下を歩いている後姿を見かけたけれども、その背中には男らしさではなくて少女のような愛らしさやはかなげな雰囲気がただよっているような気がした。
高校卒業してからは誰も山木くんの消息を知らない。
たぶん、自分の居場所をみつけたのだろう。
もしかするともう「彼」ではなくなっているかもしれない彼は、彼なりの大人の階段を昇って行ったような気がしている。(Fin)
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Theme : ジェンダー小説(IS、GID・性同一性障害、女装、男装、他ジェンダー関連全般 * Genre : 小説・文学 * Category : ショートストーリー(性と心の悩み、SM、BL、ML、JUNE)
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