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『鬼畜の戯言』菊池乱☆出版社の倒産により現在電子書籍配信ストップ中

秘密クラブからレンタルされる豊胸女装美少年レンタルドールシリーズ(SF/SM/BL/ML/JUNE/GID/女装/TS/etcな小説)言論と表現の自由を守ろう!不当なネット規制反対!不適切な規制は解除すべきです!!

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2015年12月24日

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ひとりにしないで 1 

「薫先生、オレ、ドール辞めたら行くとこないんだけど…どうしよう?」
 相談があると内線電話掛けてきたわんこを時間外のダンスレッスンの補講をやる時みたいに配膳用エレベーターを利用して、こっそり僕の部屋まで来させたものの、来たらいきなりそれで驚いた。
 やけに懐かれているとは感じていたものの、クラブの商品であるドールに手をつけるつもりはないし、それに天然茶髪で女顔のわんこは僕のタイプではないから、「どうしよう?」なんて言われてもどうにかしてやろうなんて気はその時点ではまったくなかったが……。
 わんこがクラブを辞めて寮から出て行けば他のドールたちと同様にもう関係なくなると思っていた。
 クラブを辞めるとわかっているドールにダンスレッスンの補講をする必要性はないため、しばらく会ってなかったわんこの本当に不安そうな顔を見た僕は、
「店長や橘さんには相談しましたか?」
ととっさにクラブのダンス教師としての顔で対応した。
「してないです」
と答えたわんこに、
「そういうことは店長や橘さんに相談した方がいいことだと思いますよ」
と僕が言うと、
「薫先生に聞いて欲しかったから……会って話せるのもう最後かもしれないし」
と言ったわんこは今にも泣き出しそうな顔してたくせしてさびしげに微笑んでみせた。
「話だけなら聞いてやる」
 いつもは元気なわんこのそんな顔を見たらいてもたってもいられないようないたたまれない思いがして、僕はおもわずプライベートモードでそう言ってしまった。
 わんこのように懐かれてしまっているから「わんこ」なんてあだ名をつけてしまったけれども、こいつのドール名は「NAO」という。
 今月末でクラブを辞めることになっている。
 辞める理由は、急激な身長の伸び。
 ドールは小柄な方が顧客には好まれる傾向にあるし、レンタルの搬送方法が限られる場合、規格外サイズになると搬送不可能になる。
 18でドールになってから約一年で15cmも身長が伸びて180cmまで到達してしまったNAOは、搬送方法の問題でレンタル出来ないケースも増えて、実質的にはクラブの方から契約更新を断られるような形で辞めることになってしまった。
 不人気ドールというわけでもないのだが、生憎とNAOをレンタルしたがる客の方が目立たない形の荷物としてのドールの搬送を希望するため、ご希望の搬送方法では不可能な場合は断らざるを得ないかららしい。
 顔だけ見ていればまだ少女のようにも見えるのに、首から下はしっかり育ってしまってすね毛がないのが不思議に思われるような長身の若い男の体に成長している。
 すね毛はドールになった時にNAOは永久脱毛してしまったからもう生えてくることはないのだが……肩幅なんかは僕より広い。
 首から下だけ見れば豊胸された胸以外は完璧に男の体なのに、スカート履いてても違和感感じさせないほどの女顔というのは、バランスいいんだか、アンバランスなんだか、判断に迷うところだったりする。
 とりあえずNAOをソファに座らせておいてハーブティーでも淹れようかと思った僕は、今夜はお茶よりも酒の方がいいのかもしれないと思ってワインを開けることにした。
 NAOは渋みの強い酒は苦手だから、小樽産のナイアガラを選んだ。
 これは小樽産のナイアガラ種のブドウから造られたフルーティーな白ワインだ。
 甘口ではあるが酸味も強いためさわやかな口当たりで、味覚がわんこのようにおこちゃまなヤツでも「甘くておいしい」と言う。
 ボルドーの当たり年の赤ワインを「これおいしくない」と言うようなヤツになんか絶対高いワインなんか開けてやる気にならないから、わんこにはこれでちょうどいい。
 国内産の安く手に入るワインだってアルコール入りのブドウジュース感覚で飲めばおいしい。飲み方は全然違うけど……。
 この手のワインは水のようにがぶ飲みするのにちょうどいいのである。
 コルクを抜いたワインボトルとグラス二つ持って行き、わんこの向いの自分専用の椅子に僕は腰掛けた。
 グラスにワインを注いだら、
「飲め」
と言って自分もワイングラスを口元に運んだ。
 乾杯するような気分じゃないのは確実だろうから。(続く)



わんこの衝撃の過去の話などを絡めて薫先生の一人称で書いていきます。
まだ告白前のお話なので薫先生ちょっと冷たいです(^^;

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Posted on 2009/05/02 Sat. 04:36 [edit]

ひとりにしないで 2 

「オレ、クラブ辞めてここの寮出たら、本当に行くとこないんだ。それについて話すと身の上話になっちゃうから、ちょっと話長くなるかもしれないんだけど、薫先生聞いてくれる?」
 ワインを一気に飲み干しわんこはグラスをテーブルに置くとそう言った。
 ワイン一杯で既に頬に赤味がさしている。
 顔に出やすい体質のようではあるが、前にダンスレッスンの補講後に一緒に飲んだ時にはけっこう飲んでいたから特に酒に弱いわけではないのはわかっている。
 飲んだ方が話しやすい類の話かもしれないような予感がしていたから、僕はわんこの空いたグラスにワインを注いでやった。
「話だけなら聞いてやるって言っただろうが。話したいならさっさと話せ」
 とりあえず話を聞いてやって寮内の夜間の自動施錠の時間前に帰せそうなら、自分の部屋に帰らせようと思っていた僕はわんこに早く話すように促した。
「オレ…誰の子かわかんない子なんだって。母親がけっこう尻軽だったらしくってさ、自分でもどの男の子供孕んだのかもわかんなかったみたいで…だから、オレには父親は最初からいなかったんだ」
と言うわんこに、
「そんなのイマドキめずらしくもなんともない。そういう状況でも産んでもらえただけでもありがたいとでも思っておけ」
と僕はつい言ってしまった。
 産みたがらず堕胎する女の気持ちの方がわかるような気がするから、逆説的にそんな言葉が出てしまう。
 産める体だった頃の僕なら誰の子かわかっていたって絶対産まなかっただろうから……。 
「うん…そうだよね。産んでもらえただけでもめっけもんだよね。だけど、その母親ももういないんだ。『お父さん』って呼びなさいって母親に言われてた男の人と一緒に暮らしてた頃にね、ある日突然いなくなっちゃってさ……お母さんと『お父さん』がよく喧嘩してたのは知ってたけど、まさかお母さんの浮気が原因だなんて知らなかったし、お母さんが浮気相手とどっかへ行っちゃったなんてこともずっと後になるまで知らなかった。オレ、その時まだ4才のガキだったから……」
と言うわんこに、
「おまえ、その後どうやって暮らしてきたんだ?」
と僕はおもわず訊いてしまった。
 母方の身内に引き取られたか、施設に入れられたか、そのどちらかの答えしか僕は想定してはいなかったけれども、意外な答えが返って来た。
「なんでかよくわからないんだけど、お母さんがいなくなっても『お父さん』がオレのことめんどうみてくれたんだ。同居してただけで籍なんか入ってなくて、まるで赤の他人だったのにさ。でも、オレが『お父さん』って呼べる人ってあの人しかいないんだよね」
「慈善家かなにかだったんじゃないのか?」
と言ってみたもののそんなことがあるもんなんだろうかと疑問には思っていた僕は、
「慈善なのかなぁ?人間『仁義』ってもんが大事なんだっていうのが口癖な人だったけど」
とわんこがつぶやいた言葉に嫌な予感がしてきた。
「背中に…」
と言いかけてやめにした僕に、
「背中に?ああ、『お父さん』の背中には立派な龍の刺青があってね、それで子供の頃、プールとかスーパー銭湯とかは出禁とかで入れなくて連れてってもらえなかったんだ」
と残念そうにそう言うわんこの台詞で僕にはわんこが『お父さん』と呼んでいた人がどういう種類の人物なのかがわかってしまった。
 学生時代にやっていたSMクラブのバイトでそういう連中を亀甲縛りに縛りあげたり、足蹴にしたり、鞭打ったりしたことがある。
 体育会系のがたいのいい背中に一面和彫り入ったいかつい男たちは、極真空手だの柔道だのの有段者で組でも武闘派実動部隊といったやつらで、プレイとはいえ本気で怒らせるようなことはうかつに言えないヤバイ客だった。
 ビビって帰ってきた他の女王様の代わりに何度もプレイに入ったことがあるが、酔っ払いエセチンピラリーマンどもよりはよほど礼儀正しいまともな人物が多かったりした。
『カタギの方々にご迷惑はかけるな!』
というのは上の人間がまともなら教育済みだからである。
 体育会系にしてもヤクザ社会にしても縦社会でもって、上下関係ははっきりしている。
 あの手の人間は、先に精神的にマウントポジション取ってしまえば逆らえない人種でもあるから、僕からしてみると扱いやすい連中ではあった。
 極めてわかりやすい人間だからだ。
 僕個人としては、悪い印象どころか、どちらかというと好印象のある人種ではあるが、幼い子供が育てられる環境としてはいいとは言い難いなとは思った。
 次々飲み干すわんこにワインを注いでやりながら、ごく普通の家庭で両親に愛されて育ったちょっと甘ったれな末っ子系なイメージのあるわんこの生い立ち聞いただけで、僕はまだまだ人間わからないもんだなと思っていた。
 それなりにいろんな人間見てきたつもりでいたが、幼少期に親がいないとかわからないという状態で育った人間に多いのだが、、どこか屈折していたりなどということもなく、アイデンティティーが不安定であるが故に起きる精神障害の類もわんこには見受けられない。
 真っ直ぐに素直な性格に育っているように思えていたわんこは、赤の他人であった養父には恵まれていたのだろうか?
 人間性という面で評価すれば極道とか一般人とかいうのは関係ないし、むしろ一般人から敬遠される連中の方が本当は気のいい素直な人間だったりすることもあるということも僕は知っている。
「オレ、『お父さん』大好きだったんだけど、でも、たまにやなことあったんだ。ライトいっぱいある白い部屋に連れて行かれると服脱がされて写真撮られたりしてさ…女の子の服着せられることもあったんだけど、スカートめくって見せなきゃならなかったりとかで……カメラの向こうの視線が体中舐めまわすみたいにオレのこと見ててすっげー気持ち悪かった。それでも、『お父さん』が撮影終わったらご褒美にチョコレートパフェ食べに連れて行ってくれるのは楽しみにしていて素直に喜んじゃってたんだ。あとで児童ポルノってもん知って、『あ、オレってちょっとは稼いでたんだぁ』とか思っちゃった。だって、働かざる者食うべからずだもんね」
とあっけらか~んと話すわんこの話はどんどんディープな方向へ向かっているのだが、本人に自覚がないのかさほどそれを苦にしていたようには思えない。
 僕は益々わんこがわからなくなってきた。
「児童ポルノは犯罪だぞ。今は作製や売買だけじゃなく単純所持だけでも逮捕される」
と僕はわんこにどの程度の自覚や知識があるのか確認するためにそう言ってしまった。
「うん、それも後から知ったけど、それでもオレにできることってそれしかなかったんだからしょうがないよ。『お父さん』は変態エロカメラマンみたいないやらしい目でオレのこと見たりなんかしなかったし」
と言うわんこの異様なまでのポジティブシンキングさに苛立ち、
「だけど、普通の親は子供にそんなことはさせない!」
と僕はおもわず怒鳴ってしまった。
 自分でもその時どうしてそんなにムキになって怒鳴ってしまったのかは、よくわからないのだけれども……。(続く)



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Posted on 2009/05/02 Sat. 22:31 [edit]

ひとりにしないで 3 

 わんこは唇噛みしめてしばらく膝の上できつく握りしめていた両の拳をみつめていたが、
「赤の他人様に食わせてもらってたんだから、それくらいやっても当然だったとオレは思うし、『お父さん』は悪くなんかない!」
 顔を上げると怒りを抑えきれなかった様子でキッと睨みつけるようにしてそう言い返してきた。
 鋭い眼差し…今までわんこがそんなきつい目つきをしたとこなんか見たことがなかったから一瞬ドキリとした。
 いつもニコニコへらへらしているから、本来のわんこの顔立ちはあまり印象に残ってはいなかったのだが、女顔とはいっても目鼻立ちのはっきりしたかなり整った部類の美人だから、怒りの表情を浮かべた時にはぞくりとくるような凄味がある。
 だけど、こんな状況で僕は「なかなかいい目をするじゃないか…こういうのを調教するのは楽しいんだがな」などと不謹慎なことを思い浮かべて薄く笑みを浮かべてしまっていた。
 落ちてきた前髪をゆっくりとかきあげる振りして自分の表情は隠したものの、ちょっとだけわんこに興味が出てきた。
 付き合う相手としては対象外だが、調教する「わんこ」にして遊んでやるのならおもしろいかもしれないなどと思い始めていた。
「あくまで一般論の話だ。おまえの『お父さん』が悪いとまでは言ってはいない。確かに違法行為はやってるがな。だが、違法なこのクラブで働いている僕がそれをどうこう言えた義理でもない」
とニヤリと笑って言ってやったら、
「え?ここのクラブって違法なの!?」
とわんこがひどく驚いたものだから、こっちもギョッとした。
「おまえ…まさか知らなかったのか!?」
 わんこは無言で何度もコクコクとうなずいている。
 驚き過ぎて声も出ないといったところか?
「こんな少年の体に豊胸や永久脱毛処理して、『ドール』という人工アンドロギュノスを売りにして、寮に身柄を拘束した形で客のところにレンタルするクラブが合法なわけないじゃないか?レンタルされるお前らドールのやってることは実質売春行為だからな。ついでにいうとクラブのやってることは管理売春で普通なら売春取締法違反でお縄になるようなことだ」
と僕が説明してやったらわんこの顔は見る間に青ざめていった。
「…そんなの知らなかった」
と本気で言ってる様子のわんこの抜けっぷりに僕はあきれはてていた。
 同じ年頃の子が知らないようなことを知っているかと思えば、肝心なところが抜けていたりする。
 なんともあぶなっかしいヤツだな。
「普通ならガサ入れ入ったらおしまいなんだが、ここには司法の方も手が出せないから大丈夫だ。おまえがドール辞めてからよけいなことを外で話さなければな」
「大丈夫って?…司法の方も手が出せないって?」
「ここのバックヤードは、それだけの権力を持っているってことだ。公安もここに関しては『見猿、聞か猿、言わ猿』で手出し出来ないから安心しろ。別件でしょっぴかれるようなマネでもしなければな」
 そう言って聞かせてやっても、わんこはまだ不安そうな顔をしていた。
「おまえはもうじきクラブ辞めてくわけだから大丈夫だ。そのヒアルロン酸注射で豊胸したおっぱいだってあと一年から三年ほどで完全に体内吸収されて元の平らな男の胸に戻る。体毛の方は永久脱毛処理してしまっているからもう生えてはこないだろうが、体毛がなくたってそう困りはしないだろう?病気治療で強い薬剤投与された場合に体毛が抜け落ちて生えてこなくなるケースもあるから、以前からの知人なんかに訊かれたらそのように言い訳しておけばいい」
「あの…」
と言いかけたわんこはまだ不安そうな顔をしてなにか言いたげだった。
「なんだ?言いたいことがあるなら言え」
「あの…『お父さん』が児童ポルノとあと別件とで逮捕されて刑務所入ってるんだけど、今頃なってもまだオレの写真流出してたみたいで、この前客に『この少年に君は似てるね』って昔の写真見せられたんだけど……被写体のオレはどうなるのかな?ばれたらなんかお咎め有り?」
「はぁ?何言ってんだ?おまえは被害者なんだぞ。お咎め有りなのはおまえの児童ポルノ写真持ってた客と今それを売りさばいている連中だ!」
 僕がそう言うのをわんこはキョトンとした顔をして聞いていた。
「オレ、被害者なの?」
「そうだ!」
 児童ポルノについてもわかっていそうでわかっていなかったようだ。
 こいつこんなんで大丈夫なのか?10年以上も昔の写真がまだ流通してるというのは驚きだが、そっちは手を打たないと妙な噂が立ちかねないから店長に言って処理してもらわないとまずいかもな?
 クラブのドールに昔児童ポルノの被写体やらされていた少年がいるなんて噂が広まるのはよろしくない。
 単純所持で児ポ法違反している会員増殖したら、そっちにガサ入れ入ればこっちも煽りくらわないとも限らない。今児童ポルノの取り締まりは昔と比較にならないくらい厳しくなっているのだ。
 NAOはもうじき19になるが、他のドールの中にはまだ15、6やそこらのもいるから、児童福祉法でやられる。
 圧力かけてもらって揉み消しは出来たとしても寮とクラブは引っ越して開業し直しせざるを得なくなる。
 まさか閉店まで追い込まれはしないとは思うが……。
「薫先生?」
 黙り込んでしまった僕にわんこが心配そうな顔して声をかけてきた。
「おまえが心配するようなことはないから大丈夫だ」
と言ってやったら、
「あ…そうじゃなくて、あの…オレ、さっき言ったんだけど『お父さん』が刑務所入ってて……」
と言いにくそうにわんこは話しだした。
「それで?」
「今まで住んでた部屋も追い出されちゃって、この寮出たら行くとこないんだ。オレ、まだ未成年だし、ここ出たら無職だから部屋なんて自分で借りれないし……だから、どっか住み込みで働けるとこないかな?」
 わんこのその台詞を聞いてためいきが出てしまった。
 だらだらと身の上話などせずにすぱっと用件を先に言ってくれれば早かったものを、なんでこいつはここまでたどりつくまでにあんな話をしたんだ?
「マンション個室寮有りってとこもあるが…ニューハーフの店になるぞ。しかも、ここより給料はぐんと安い」
「ニューハーフじゃない仕事は?」
「今のおっぱいのある体で住み込みで普通の仕事やったら、おまえ、たぶん、ただで男に犯されるぞ」
 そう言ってやったら、わんこの顔がひきつった。
 仕事だからなんとかこなしていただけで、こいつの基本性癖はノーマルだ。
 しかも、仕事で慣れてバイセクシャルやゲイに転じるヤツが多いのにも関わらず、そっちに転じることなくほぼノーマルな状態のままであるのは珍しい。
 どうしたものかと考えながらも、
「求人情報の資料集めてきてやるから、今日はもう自分の部屋へ戻って寝れ」
と言ってとりあえずわんこを部屋から出そうとしたら、カシャンという音がして寮内の夜間自働施錠が部屋の外側から施された。(続く)



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Posted on 2009/05/04 Mon. 05:08 [edit]

ひとりにしないで 4 

「あーっ!」
 あわててドアを開けようとしてみたものの、もうどうにもこうにも開けられない状態になっていた。
 このクラブの寮は、脱走防止と夜這い防止などの理由から夜間から早朝にかけて各個室に外側から自動施錠されるように設定されている。
 ドールだけではなく教職員の個室もロックされるから、こんな風にわんこを部屋に呼んでる時に施錠の時間になってしまったりすると不本意ながら朝まで帰せなくなってしまう。
 仕方がないから泊めてやるのだが、わんこは寝言を言うくせがあり、僕の方が寝不足になるためあまり泊めたくないのだが……。
 ワインを空けてしまってから、あきらめ半分、
「寝る前にもう少し飲むか?」
と言ってみたら、
「はい」
となぜかわんこはうれしそうな顔をして答えたから、ゆず焼酎を出して来て焼酎の水割りを作ってやった。
 これはわんこのお気に入りの焼酎だったりする。水割りにしてやるとジュースの如く次々飲み干してしまう。
 ゆずの香りのするさっぱりした飲み口の焼酎なもんだから、飲みやすくてついつい飲み過ぎてしまうという罠があるのだが……。
 ピンクのネグリジェ姿のわんこは、首や胸元まで色白な肌を赤く染めながらも飲み続けている。
 どちらかというと飲める方だな。僕のペースで一緒に飲んでいて潰れないヤツは珍しいから。
 だけど、
「せんせ…ねむい」
と言い出したら要注意だ。
 すぐにベッドに連れて行かないとわんこはその場で寝てしまう。
 ほとんど身長の変わらないぐでんぐでんに酔っ払っている男をベッドまで連れて行くのは一苦労で、そこらへんに放置したくなったりもするのだが、クラブの商品である「ドール」に風邪でもひかれるとまずいのでなんとかベッドまで連れて行く。
 寝てからも迷惑なヤツなのだが……。
 実は、こいつ、眠っている間に、
「…お父さん」
とか、
「薫先生…好き」
とか、
「ひとりにしないで…」
といった内容の寝言を言ったりするのだ。
 それを聞くと僕はなぜかいたたまれない思いでいっぱいになる。
 いつもは元気なわんこも本当はさびしいんじゃないかと思うからだ。
 うっかり抱き締めてやりたくなったりする。
 自分でもよくわからない気持ちでいっぱいになっていてもたってもいられなくなる。
「同情なんだろうか?」
 今までは単に「さびしいのか?」で終わっていたのが、今日聞かされた話を思い出すとそれだけじゃないような気もして、僕は自分の中にある感情は「同情」なんだと思うことにした。
 布団の中で、眠っていても無意識のうちにすり寄ってくるわんこから逃れるため、後ずさりするようにして密着するのを避けていた僕は、ベッドの端まで追いやられて一度ベッドから出ると、薄暗闇の中でベッドサイドからわんこの寝顔を見てみた。
 あどけない無邪気な顔してよだれたらして眠っている。
 寝顔はまだまだ無防備な子供の顔だ。
 柔らかな天然茶髪の髪を撫でてやると寝ているはずなのに、なぜかわんこはうれしそうに微笑んだ。
 しばらくわんこの髪を撫でてやっていた僕は、
「薫せんせ…大好き」
というわんこの寝言を聞いて眉間にしわを寄せた。
 起きてる時も、
「薫先生好き」
「大好き!」
「マジで尊敬~!」
「薫先生は、オレの憧れだから」
なんて言葉を恥ずかしげもなく連発するわんこにどう接したらいいのかわからなくなることもしばしばあって、わざと邪険に扱ったこともあったのに、寝言でまでこんな風に言われたりすると益々どうしたらいいかわからなくなる。
「とりあえず、住み込みの仕事を探してやったら、おしまいだな。クラブを辞めたらこいつと会うことはもうない」
 僕は自分に言い聞かせるように小さくそうつぶやいた。
 そして、ベッドの反対側に回ってわんこと少し離れたところで布団の中に潜り込んだ。(続く)



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Posted on 2009/05/05 Tue. 12:30 [edit]

ひとりにしないで 5 

 目が覚めた時、下半身に違和感を感じた。
 生温かいその感触に気づいた瞬間、僕はカッと目を見開いた。
「なにをしているっ!?」
 動揺しながらも僕の股間に顔をうずめているヤツに詰問したら、
「え?…先生、気持ち良くないの?」
とピントの合っていない答えが返ってきた。
「そういう問題ではない!今すぐ僕から離れろっ!!」
と怒鳴りつけ両手でわんこの頭を引っつかんで自分の股間から無理矢理どけた。
 そして、ずり下ろされていたパジャマのズボンと下着を急いで引き上げると、手を伸ばして壁の電気のスイッチを押して電気をつけた。
 明るくなってバツの悪そうな顔をしたわんこがベッドの上に座り込んでいるのが見えた。ドールになってからすっかり身についてしまった女の子座りをしている。
 女顔のわんこがピンクのネグリジェを着てそんな風に座っていると、本当に女の子みたいに見えるのだが、僕はこいつが大柄な女の子などではないことを知っている。
 豊胸でつくられたおっぱいがあってもこいつは男だ。一時的に、クラブで『ドール』という特殊な商品として扱われてはいるが、こいつは身も心も基本は普通の男なのである。
 しかし、問題はそこではない。
 男か女か云々以前に商品であるクラブのドールとここの従業員である僕は性的関係になどなってはいけないのだ。クラブの規則によってそう定められているため、さっきのようなわんこの行為は、僕にとっては非常に迷惑極まりないことだった。
 ばれたりなんかしたら僕はクビだ!
「なんであんなことをした?」
と問う自分の声色には隠しきれなかった怒りが滲み出ていた。
 わんこは何かもの言いたげに伏し目がちに僕の様子を窺ってはいるものの、言葉は出てこない。
「ここの規則はわかっているよな?」
と僕がわんこに確認すると、わんこは無言でうなずいた。
「それなら、なんであんなことを…」
 そう言いかけた時、僕の言葉を遮るように、
「薫先生のことが好きだから!」
と言ったわんこの顔を驚いて凝視してしまった。
 冗談を言っているような顔ではない。
 頬が上気してピンク色に染まっている。まっすぐと僕のことをみつめている色素の薄い茶色い瞳は熱に浮かされたように潤んでいる。認めたくはないが、こいつは本当に僕に恋しているようだ。
「好きだからと言って眠っている人間を犯そうとするのは犯罪だぞ?」
とわざと冷たい口調でそう言ってやったら、
「違います!もうじきオレはここを出て行かなきゃいけないから、せめて最後に思い出が欲しかったから…一度でいいから薫先生に抱いてもらえたらと思って…」
「それで、僕の寝込みを襲って勝手にしゃぶったっていうわけか?」
 わんこの答えに苛立ちを感じながらも僕は事実をそのまま口にした。
「だって、そうでもしないと薫先生、オレのことなんか相手にしてくれそうになかったから…でも、どうして勃たないの?オレ、フェラは上手だって客に褒められるのに」
と言うわんこに、
「僕のは…おまえのとは違って勃起はしない。ただの排泄器官に過ぎないからだ」
と僕はやけくそでそう答えてしまった。
 おもわず奥歯を噛みしめてしまったものだからギリリッと嫌な音がした。
「どうして?先生…EDなの?」
 困惑している様子のわんこは遠慮がちにそう訊ねてきた。
 僕は本当は言わずに済ませたかったのに、なぜかその時は感情にまかせて言ってしまった。
「おまえがさっきまでしゃぶっていたのは、ただのしょんべんホースだ。絶対に勃起することのない、生殖器とは言えないシロモノだ!」
「…なんで?」
「僕は…生まれた時は残念ながら男の体じゃなかったんだっ!!」
 その場の勢いでわんこに言いたくなかったことを白状してしまった僕は、眼窩がカッと熱くなり耐え難き恥辱を感じて、こみあげてきた涙がこぼれ落ちそうになっていた。どうしようもならない悔しさやら憤りやらがこみあげくる。
 けれども、わんこの前で泣いたりなど出来るわけもなく、
「シャワー浴びてくる」
と言って僕は浴室へと向かった。
 とにかく、一刻も早く一人になりたかったから……。(続く)




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Posted on 2009/06/29 Mon. 03:04 [edit]

ひとりにしないで 6 

 頭から冷たいシャワーを浴びて少しでも頭と熱を帯びたまぶたを冷やそうとしていた僕は、すぐに体が冷えてしまって仕方なくシャワーを温水に切り替えて冷えきってしまった体に浴びせかけた。
「感情的になるな!ドールは商品だ。しかも、あれはもうじきクラブを辞めて去っていくヤツだ。ばれたってどうってことはない」
 自分に言い聞かせるようにそう言いながら、僕は普通の男とは言い難いFtM-GIDの自分の体をじっとみつめた。
 か細い手首の骨…男にしては華奢な骨格は、鍛えてある程度筋肉をつけてみたところで変えようがない。
 レントゲンなんか撮らなくたって「安産型」と言われていた横に張り出し過ぎている僕の骨盤の形は普通の男とは違っているのは一目瞭然だ。肩幅とのバランスが男のそれとは違っている。
 胸に大きく残っている手術痕は見る人が見れば縮胸手術によるものだとわかるだろうし、それがわかる人たちには元々ここについていた乳房が男の女性化乳房程度ではありえない大きさであったことも予想はつくだろう。
 元々ついていた乳房が大きくなければ、このような大きな手術痕が残る縮胸法ではなく、ほとんどの人が気づかないような傷跡の目立たない方法で乳房の除去は出来たはずだった。
 縮胸手術後は上半身脱いでも男で通用する体になれるはずだった。あんなでかいおっぱいなんかがついてさえいなければ!
 胸の手術痕から更に下に視線を落としていき下半身を見たらもっとみじめな気分になってきた。
 男性ホルモンの摂取で女子トイレに入ると変質者のように見られるような外見に変化してきた頃、男子トイレに入っても個室でしか用を足せない体の不自由さを実生活面で切実に感じるようになっていき性別適合手術を早く済ませてしまおうと思った。
 男子トイレに入って個室で用を足している時、音を聞かれたら不審に思われるのではないだろうかと気が気ではなかった。洋式トイレで男がタチションしている時と女が用を足している時の音は明らかに違うのだ。
 いつばれてもおかしくはない状況で、外出先でトイレに入りたくなかったため、水分摂取を極端に控え過ぎて脱水症状を起こしたこともあった。夏場でもないのに倒れた僕は医師に叱られた。
「脱水症状起こして死ぬことだってあるんですからね!ちゃんと水分補給はして下さい」
と。
 そういや、あの先生イケメンだったな…僕の好み的にはもうちょっと年食ってる方がよかったから、口説いたりはしなかったけど……。
 あの後、本格的に下半身の問題解消に取り組んだ。
 最初から男性機能については期待はしていなかったが、タイへ飛んで手術で造ってもらってきた男性器は勃起することはない。さっきわんこに言った通り、ただのしょんべんホースに過ぎないシロモノだ。
 それでも、見た目だけでも男に見える形にしてしまえば気持ちは落ち着くと思っていたはずだった。
 ところが、実際には僕は満足していない。
 まるでEDの男みたいにコンプレックス持ち続けている。
 実用性のあるモノを造ることは可能ではあったのに選ばなかったのは選択ミスか?
 インプラントを内部に挿入することによって、セックスの際に挿入可能な状態のペニスを造ることは可能だったのに、それをやらなかったのは長い目で見ると体内の異物が引き起こす悪影響が怖かったからだった。
 だが、こんなにも強いコンプレックスを持ち続けているのなら、いっそのこと再手術した方がいいのだろうか?
 雑菌の侵入によってせっかく手術で形成しても、造ったペニスが腐れ落ちてしまうことがある。そのリスクを低くしようと思ったらインプラントなんて雑菌の温床になりかねない異物を体内に挿入する手術法は避けた方がいいというのが性転換手術時の僕の判断だった。
 けれども、セックスはドSでゲイのタチなんて状態の僕には勃起しない造り物のペニスは、やはり強いコンプレックスを感じさせる。
 日常生活においては、普通に公衆トイレでタチション出来るなど、男性として生活していくためには最低限の不自由さを感じさせない程度のモノが今の体には存在している。
 けれども、セックスの場面では、健康な男の身体と同じ機能は求められるわけもなく、手術前と大差ないセックスのやり方でもって済ましている。
「こんな僕に、抱いて欲しいだと?」
 わんこの言葉を思い出しながら僕は自嘲した。
 僕にはわんこが求めるような抱き方はしてやれない。
 それは、わんこがクラブの商品だから云々以前の問題だった。
 道具を使ったSMセックスしか僕には出来ない。
 それに…僕は知っていた。
「SM苦手だって言ってたじゃないか?」
 わんこが苦手としているレンタル先の客がサドだってことは愚痴を聞いてやってた僕は知っていたから、自分の性癖についてはわんこには一切話してはいなかったのだが、それがどうやら裏目に出たようだった。
「相性最悪な相手に何言ってるんだよ?僕がおまえが一番苦手としていることで愉しむようなヤツだって知ったら、あきらめてくれるのか?それとも、僕がこんな体だって知って気色悪く思ってドンビキするのか?」
 昨夜のわんこのあのきつい眼差しにちらりと過ぎったあれは、ありえないと思っていたからちょっと愉しく思ってみただけで、本気で手だしする気などは僕にはなかった。
 仕事と住居の件だけここを出て行ってから困らないように手配してやるぐらいの面倒は見てやるつもりではいたものの、こんなことになってしまったからには、僕はもうこれ以上わんこに関わらない方がいいんじゃないんだろうか?と思い始めていた。(続く)




2009年6月5日携帯配信開始!
小説「僕のアニキはサイボーグ」菊池乱

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Posted on 2009/07/17 Fri. 04:41 [edit]

ひとりにしないで 7 

 朝の開錠の時間になるとすぐにわんこを自分の部屋へ追い返してしまった。
 わんこは何かもの言いたげではあったが、僕の機嫌の悪さ加減的に声をかけない方がいいと判断したのか?あの後だんまりのままであった。
 あれこれ詮索されたりせずに済んで内心ほっとしたものの、僕の気分は落ちたままだった。
 憂鬱な気分を引きずったまま、ダンスレッスンやその他僕が任されている講習で新入りのドールに仕事に必要なことを時間がないなりに付焼刃的に急ぎで教え、空き時間には求人情報誌や住宅情報誌を買いにコンビニまで出かけて行った。
 寮からの外出はクラブのスタッフか店長の送迎でしか出かけることは許されてはいないため、店長に連絡をして車を回してもらった。
「どうしました?薫先生、寝不足ですか?顔色がすぐれないようですが…」
と運転中の店長に声をかけられ、悪いのは気分の方だとは答えられない僕は、
「すみません、寝不足です。茶道具を出したついでに今日教える分のおさらいをしていてちょっと寝るのが遅くなってしまったもので…」
ととっさにうそをついてしまった。
「そうですか…急に茶道の講習をお願いしてしまいましたからね。申し訳ない。でも、薫先生がいて下さってとても助かってますよ。ダンス、立ち居振る舞いから礼儀作法、テーブルマナー、茶道、華道まで、一通りコンパニオンドールが求められる技能講習をお願い出来る人材はなかなかいませんから」
と言う店長の台詞の内容を聞きながら、普通の男ならこの内容教えられるレベルまで身についてるヤツは少数派だろうなとは思った。
 女として…女らしくあろうと努力して生きてきた年数の方が長い僕には身についてしまっているが、普通の女だって努力して学ばなければ人に教えられるレベルまでは到達しない。
 僕が男として生きる人生を選んで今の姿で生活するようになった期間はまだ短い。僕の人生の大半を占めている女として生きてきた間に身につけてきたことが、皮肉なことに今の中途半端な状態の僕が働きやすい職場での仕事に役に立ってくれている。
 一応、男で通用しないこともないような外見になっても、日本の法律上の問題で僕は女から男への戸籍上の性別変更は出来ないため出来る仕事は限られるのが現状だったりする。
 僕がタイで受けてきた性別適合手術の方法では日本は男と認めないからだ。
 性同一性障害であるFtM-GIDが、戸籍上女から男への性別変更を望む場合の要件として、子宮、卵巣、卵管の摘出手術は必須事項なのに僕は取らずに尿道経路の変更と男性器の形成しかしてこなかった。
 だから、戸籍上は今も女のまま。
 ちなみに、僕の今の体の状態はアメリカなら戸籍も男に変更可能なレベルだったりする。
 MtF-GIDの場合は、前立腺や精嚢などの摘出は義務付けられてはいないし、極端な話、造膣もせずに外性器と尿道経路の変更だけで戸籍の性別変更は男から女に変更出来るというのだから、なんとも不公平な話だ。
 僕の場合は、戸籍上の性別変更までは望まないことを前提に健康上の理由から卵巣と子宮を温存したわけだから、それはそれで納得しているつもりではいるが、健康上リスクの低い方法のSRS(性別適合手術)では法的にFtMの戸籍の性別変更が認められないという日本の法律については疑問を感じてはいる。
「着きましたよ」
と店長に言われて目隠しを取り車から降りてコンビニへ入った。
 あのクラブも寮も特殊なものだから、いずれは辞めていなくなる人間には所在地を知らせないように送迎中は目隠しが義務付けられている。
 寮の所在地も知らないし、このコンビニがどこにあるのかも僕は知らない。
 雑誌のコーナーを見ていて、求人雑誌と履歴書と住宅情報誌の他に、ふと思いついて若い男の子向けのファッション雑誌を手に取った。
 わんこが寮を出て行くまでに男物の服を用意してやらなければならないからだ。
 入寮してきた時の服は小さ過ぎて着れないし、わんこ本人の性自認は男だ。ドールとして仕事のために女装しているだけの男に辞めて寮を出て行く時も女装して出て行けというのは酷というものである。
 店長が用意するものはセンスがいいとは言い難いため、いつのまにか僕か橘さんがドールを辞めて退寮する各ドールに似合いそうな服を買ってくるようになった。
 ファッション誌も一緒にレジに出し、ついでに温かい缶コーヒー2本を保温のコーナーから取り出して買った。さりげにレジでコンビニチェック確認してみたが、やはり20代男で入力されていた。
 三十路過ぎても若く見えると言われる僕の外見は、180センチ超えた長身のせいもあってもう女には見えないようでぱっと見男と判別される。
 コンビニチェックなんかわりと適当だと言われてはいるが、やはり男と識別されるとほっとする。
 コンビニを出て車に乗り込むと、
「店長、コーヒーどうぞ。ブラックでよろしかったんですよね?」
と店の駐車場に車を止めて待っていてくれた店長にさっき買ったコーヒーを一本手渡した。
「お気遣いありがとうございます」
と礼を言って店長はコーヒーを開けて飲み始めた。
 僕も自分用に買った微糖のコーヒーを飲み本当に寝不足でぼんやりしてしまう頭に活を入れた。
 コンビニの袋の中のファッション誌が気になり、
「NAOの退寮時用の服や下着や靴、一揃え買っておきましょうか?」
と店長に声をかけたら、
「そうですね。お願いします。送迎が必要ならまた連絡下さい」
と言われたが、
「いえ、次の休みの時にあちこち店を見て回って買ってきます。NAOは身長あるし手足が長い体型していて、合う服探すのに手間ひまかかりそうですから」
と答えておいた。
 送迎で運転してきてくれている人を待たせておくのが申し訳なくて、時間がかかる買い物は休みの日にゆっくりしてきた方が気が楽だからだ。
「そうですか…では、お願いします。領収書はいつも通りで」
と言う店長に、
「ええ、例の店名で領収書は取っておきます」
と僕は答えた。
 経費で落とすのに表商売しているダミーの店名で領収書は取ることになっている。クラブ名義で領収書を取るわけにはいかないからだ。ダミーの店は一年位で開店と閉店を繰り返しているから、そっちルートからこっちのクラブの件がばれることもない。
 ここのクラブは、おもいっきりアンダーグラウンドなところに位置するドールという高級男娼の派遣を扱う秘密クラブなのだ。表社会に名前を出せないクラブの名前で領収書を取るわけにはいかない。
 こういうクラブに約一年もいて非合法なクラブであることに気づかなかったぼんやりなわんこが、寮を出てからまだ豊胸おっぱいのある体でうまいこと一人でやっていけるのだろうか?
 気がついたら、今日の憂鬱の元凶のことばかり僕は考えていた。(続く)



☆☆☆アンケート☆☆☆

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「僕のアニキはサイボーグ」は人の生死について菊池なりに考えてみたSF作品です。先日可決成立した改正臓器移植法は「脳死は人の死」ということを前提として一年後の施行に踏み切るそうです。それについて皆様はどう思われますか?

Posted on 2009/07/22 Wed. 05:29 [edit]

ひとりにしないで 8 

 あらかじめお互いの共通の空き時間を確認しておいて、エステルームにいる橘さんを訪ねて行った。
 雑誌見ながらわんこの服選びに付き合ってもらうためだった。
「これなんかどうかな?」
とファッション雑誌のページの中のモデルが着ている服を僕が指差したら、
「いいんじゃないですか?NAOちゃんに似合うと思いますよ。ま、似合う、似合わない、自分の趣味かどうか関係なく、薫先生が選んでくれた服ならあの子は喜んで着るでしょうけどね」
と橘さんは含み笑いをした。
「な、何言ってるんですか?」
「ドールとの恋愛は禁止ですけど、元ドールとの恋愛までは禁止されてませんからね~」
と言った橘さんはずいっと僕の顔面ギリギリまで接近してきてにぃーっと口角を上げて笑った。だけど、目は笑ってなかった。
 あわてて後退して、
「そんなんじゃないですからね!」
と大声で否定した僕に、
「自覚がないのが一番タチが悪いんですよ」
と小声で橘さんはつぶやいた。
 勘違いも甚だしいと僕は憤慨しながらも聞き流すことにして、
「NAOのサイズ、橘さんなら知ってますよね?次の休みに買いに行きますから、教えて下さい」
とわんこの服のサイズを橘さんに訊ねたら、
「あの子…まだ伸びているから、採寸した方がいいと思って呼んでありますから、ちょっと待って下さいね」
という橘さんの答えにおもわず動揺してしまった。
「え…ここに来るんですか?」
「ええ、来ますけど、何か?」
「いえ…別に」
 そう言った僕の視線はたぶん泳いでいたと思う。
 出来ればわんこと会いたくなかった。
 まだ、気持ちの整理がついていない。
 気にしないことにしようとしていた僕の最大のコンプレックスを引きずり出したあの件で受けた精神的ダメージは予想外に大きかった。
「失礼しま~す」
という少年の声というよりもよく通る透明感のあるテノールの若い男の声が響いてビクリとした。
 エステルームの入口に立っていたのはわんこだった。(続く)



☆☆変身願望アンケート☆☆

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Posted on 2009/08/07 Fri. 00:54 [edit]

ひとりにしないで 9 

「まだ伸びそうねぇ…」
とつぶやきながらわんこの採寸をしている橘さんに背を向けて椅子に腰かけていた僕は、わんこを見ないようにしていた。
 採寸のために下着姿になっているからだ。
 ドールの基本の体は男とはいえ、ここのクラブに在籍中は女装して生活することを義務付けられているため、採寸中のわんこは今ブラジャーとパンティーという姿なのである。
 正直言って見たくなかった。
「はい、終わり!」
と言った後、
「あ、そうか!股下もはかっておかないとズボンのサイズがわからないわね」
とおもいだしたかのように言う橘さんの台詞におもわず吹き出してしまった。
「橘さん、スカート履かせて送り出すわけにはいかないから、今サイズはかってるんじゃないですかぁ?」
と僕がこみあげてくる笑いを押し殺しながらそう言ったら、
「う~ん、そうなんですけどねぇ、NAOちゃんの顔見てるとズボンの必要性忘れちゃうんですよね」
と橘さんは言った。
 確かにわんこのあの女顔見てたらスカート履かせておいても違和感ないように感じるかもしれないが、ちょっとその発言はひどいなと思っていたら、
「橘さん、ひど~い!パンツの中身も知ってるくせしてそういうこと言うわけ?」
とわんこは事情を知らない人が聞いたら誤解しそうな抗議の声をあげた。
 ここのエステティシャンの橘さんは、全ドールの体の隅々まで見知っているし触れてもいる。諸事情によりまさしくパンツの中身まで見知っているわけではあるが、わんこの発言は他人様が聞いたら下衆な想像をするに違いない内容だった。
 けれども、僕は、
「見落とされるほどのもんなんだろ」
とついついいらぬ茶々を入れてしまった。
 そしたら、
「薫先生、ひど~い!ちゃんと普通サイズのついてますよ、ほら!」
と言ってなんとわんこは僕の目の前までやってきて水色のパンティーをおろしてしまった。
 あわてて、
「バカ!早くしまえ!おまえは露出狂か!?」
と怒鳴った僕に、
「違います!男の股間にかかわるんです!!」
とわんこは言った。
 とっさにその言質を取って、
「おまえ、それを言うなら、沽券にかかわるだろうが!?」
と僕が言ったら、僕とわんこのやりとりを聞いていた橘さんはゲラゲラ笑いだしてしまった。
 しかし、今朝方の一件のせいで気まずさを感じていたのに、このおバカなやり取りのおかげでいつもの調子に戻ってきた僕は、この後判断ミスを犯してしまった。(続く)



☆☆☆アンケート☆☆☆

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Posted on 2009/08/19 Wed. 05:19 [edit]

ひとりにしないで 10 

 仕事を終えて部屋に戻って食事した後、僕はコンビニで買ってきた求人誌のチェックをして付箋貼ったり蛍光ペンで印をつけたりしていた。
 わんこが働けそうな仕事をピックアップしていたのである。
 それが終わったら内線電話でわんこの部屋に電話して、
「求人情報誌買ってきたから、今から配膳用エレベーターでお前の部屋へ降ろす。それ見てここを出てからの就職活動の参考にしろ」
とだけ言って僕は配膳用エレベーターへと向かった。
 雑誌だけ入れてわんこの部屋へ降ろしてやるつもりでいたのに、なぜかエレベーターが上昇してきて、開いた狭い扉からは窮屈そうにピンクのネグリジェを着たわんこが這い出してきた。
「なんで上がってきた?早く部屋へ戻れ!」
と僕が小声で怒って言ったら、
「だって…オレ、まともな就職活動なんてしたことないから、雑誌見たってどうしたらいいかわかんない」
とわんこは不安そうな顔をして言った。
「内線電話してくれば相談には乗ってやるから戻れ」
と言って僕はわんこを部屋へ戻そうとしたが、
「ちゃんと施錠の時間までには戻るから、薫先生、進路相談お願いします」
と頭を下げたわんこが顔を上げた時、唇噛みしめて今にも泣きそうな顔をしていたものだから、
「ついて来い。その代わり施錠時間までには必ず帰れよ」
とうっかりわんこを部屋に入れてしまった。
 僕は判断ミスを犯してしまった。
 今朝方のことを考えればなにがなんでもわんこを部屋に入れるべきではなかったのに……。
 わんこと部屋で二人きりになってしまったら、今朝の出来事が気になりだして急に落ち付かなくなってきた僕は、とりあえずカモミールティーを二人分淹れた。
 少しでも落ちつかねばと思って沈静作用のあるハーブティーを選んだのである。
 わんこはティーカップを見るなり、
「お酒じゃないんだ…」
と小さくつぶやいた。
「酒飲みながら進路相談するわけにはいかないだろうが!」
 僕は少し苛立ちを感じながらそう言ってしまったが、
「オレ…お酒飲まないと眠れないんだ」
とぽつりと言ったわんこの顔をおもわず凝視してしまった。
 そんな素振りはなかったから気がつかなかったが、こいつもなのか?
 ほとんど毎日のように仕事でセックスし続けているドールたちは、限界まで勃たされ搾り取られ、その行為を苦痛に感じるようになる者もいれば、重度のセックス依存症状態になってセックスしなければ眠れなくなる者までいる。
「客のとこでも寝酒飲んでたのか?」
 確認のためそう問いかけてみたら、
「ううん、寮に戻って一人で寝る時だけ」
という答えが返ってきた。
 どうやらアルコール依存症の併発の可能性はなさそうだ。
「進路指導が終わったらちょっとだけ飲ませてやる。酒持たせたらおまえの部屋から空きビンみつかった時にまずいことになるからな」
と僕はついついそう言ってしまった。
 ドールは基本的に仕事に出かける時以外は寮から出ることは禁じられている。
 橘さんかクラブのスタッフに買い物リストを渡して、必要な物を買っているドールの部屋からそのドールが購入していない酒の空きビンなんかがみつかったりしたらめんどうなことになる。
 それに…わんことは違う理由でアルコール無しでは眠れぬ夜を過ごした頃のことを僕は思い出してしまっていた。
 眠ってしまいたいのに眠れないのはつらい。だけど、眠れないというだけで病院へ行くのは抵抗があり、僕は睡眠薬代わりにアルコール度数の高い酒を寝酒に飲み続けた。
 おかげで気にくわなかった声が酒焼けでハスキーボイスと呼ばれる声質に変わったのはおもわぬラッキーではあったが……。
「薫先生…ほんとにいいの?お酒飲ませてもらっても…」
 おずおずと遠慮がちに訊き返してきたわんこに、
「眠れないんだろう?寝酒くらい恵んでやる」
と答えた僕は、さっさと進路相談を終わらせて酒飲ませたら、わんこを自室へなるべく早く帰そうと思いながら、
「めぼしいところはチェック入れておいたが、おまえ、履歴書の書き方わかるのか?」
と渡した求人情報誌をパラパラめくっているわんこにそう訊ねた。
「書いたことないからわからない」
という予想通りの答えが返ってきたから、
「こっちの見本みながら試しに書いてみろ。面接行く前に書かなきゃならないんだから、履歴書の書き方くらい覚えておけ」
と用意しておいた履歴書とボールペンをわんこに手渡してやった。
「名前の横に押す印鑑は三文判でもかまわないが、シャチハタはダメだからな」
と一応釘を刺してみたら、
「なんで?」
とわんこはきょとんとした顔して訊いてきた。
 ダメだ…こいつ、普通のバイトの類はしたことないのか?
「シャチハタはゴム印だから使っているうちに消耗して文字の形が変わってしまうから、銀行印には使用不可だし、履歴書や役所関係の届け出にも通用しないんだ」
「へぇ~、そうなんだ」
と言うわんこののんきな声に、この世間知らずが!とイラッときたがサクサク進めて早く終わらせようと思って履歴書を書かせてみた。
「最終学歴…え?大学休学中って!?」
 わんこの履歴書を見た僕はぎょっとした。
「受かったんだけど、お父さんの逮捕の件とか、借りてた部屋追い出されたのとか、いろいろとあって…しかも、オレ、ドールになっちゃったから通えないでしょ?で、大学辞めようかと思ったんだけど、店長が休学するように勧めてくれたから入学してすぐに休学したんだ」
 バツが悪そうにそう言うわんこの履歴書は、高校は東大合格率の高さを誇る超進学校で、大学だって世間が一流大と呼ぶ私立大学で…しかも、学部は医学部と記入されていた。
 ありえない…おバカキャラのこいつがそんなエリートなわけがない。
「薫先生、疑ってるでしょ?でも、学歴詐称はしてないよ?オレ、おバカだけど、学校の勉強だけは出来たんだよ~」
と言うわんこはどうやら自覚はあるようなのだが、普通は自分から「オレ、おバカだけど、学校の勉強だけは出来たんだよ~」とは言わないぞ。
 僕は、パニクリながらもわんこの進路相談については根本的にやり直しをしなくてはならないことに気がついたのだった。(続く) 



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Posted on 2009/08/23 Sun. 23:34 [edit]

ひとりにしないで 11 

 わんこが大学休学中の身であるなんてことを知らなかった僕は、
「なんで大学に籍があることを先に言わないんだ?学生なら部屋を借りるのは無職よりはずっと簡単だっていうのに……」
と咎めるように言ってしまった。
 ところが、
「辞めるつもりでいたから…」
とわんこが答えたものだから、更に驚いた僕は、
「なんでせっかく合格した大学に行かないんだ?入学金も授業料も払って一年間休学しておいて、今辞めたらもったいないとか思わないのか?」
と自分でも眉間にしわが寄っているのがわかるくらいしかめつらしい顔をして詰問してしまった。
 人がうらやむ一流大学の医学部をこのタイミングで辞めるというのが理解しがたかった。入りたくても入れない人間が大半だっていうのに、そこに入れた人間はそんなに簡単に辞めるとか言えるもんなのか?
「オレにはもう大学行く意味がないから」
 そう言ってうつむいてしまったわんこの表情は長い前髪に隠れて見えなかった。
 天然茶髪のてっぺんには天使の輪が輝いている。
「大学行く意味がない?医者になるために医学部入ったんじゃないのか?」
「別に…学部は医学部でも法学部でもどこでもよかったんだ。オレが受かりそうなとこで一番の難関校なら…担任も進路指導の先生も偏差値で判断してあの大学受けろって言ってきたしさ」
 僕の問いかけに答えたわんこの答えは僕が一番嫌いなタイプの進路選択の仕方だったものだから、おもわず説教おっぱじめそうになってしまった。
 けれども、
「お父さんがいなけりゃ、いい大学入ったって意味がないのに…がんばる意味なんかもうないのに……」
という意味不明なわんこの台詞に反応して説教たれるのは後回しにすることにした。
「どういうことだ?」
「言葉通りの意味。今日、エステルームに採寸しに行った後、外線電話の使用許可取ってお父さんの面会行って差し入れしてくれたりしてる人に電話してみたらさ、肝硬変で八王子の医療刑務所に移された後に、お父さん…死んだ…って聞いた。オレ、テストでいい点取るとお父さんがすごく喜んで褒めてくれるのがうれしくて勉強がんばったのに…お父さんにいっぱい褒めて欲しくてがんばってレベル高い高校や大学受験して入ったのに……もう勉強がんばる意味なんかないのに、それでも大学行く意味ある?」
 僕はわんこのその台詞を聞いて言葉を失ってしまった。なんと言ったらいいかわからなかった。
 それでも、わんこの今の心境は予想がついた。
 なんせ5年前の僕は、がんばり続ける意味を失い「女」であり続けることもやめてしまったのだから……。
 僕が「女の子」に生まれてきたことを誰よりも喜んでくれたあの人を亡くしてから、心は男の僕は自分の本当の気持ちを押し殺して、我慢してあの人のために女の振りして演技し続けて生きて行く人生を放棄した。
 だって、あの人…お父さんは、もういないのに我慢して女の振りし続ける意味がどこにある?
 死にたくなるほど嫌なことも我慢出来たのは、喜んでくれる人、褒めてくれる人がいたからだった。
 でも、一番喜んで欲しい人、褒めて欲しい人はもういないのに、何をどうがんばれと言うのだろう?
 痛いほどに今のわんこの心境がわかってしまった僕は何も言えなかった。
 席を立った僕は甘党のわんこも飲める甘口の白ワインを冷蔵庫から引っ張り出してきた。
 そして、
「飲め」
とワインを注いだグラスを勧めた。
 が、脇に押しやった履歴書や求人情報誌を気にしている様子のわんこはすぐにはグラスに手を伸ばさなかった。
「進路相談なら明日でも明後日でも、ちゃんと相談乗ってやるから、とりあえず飲め」
と僕が言ったらわんこは無言でグラスを空にした。
 まるでお通夜だな…いや、実質お通夜みたいなもんか……と思いながらも僕は次々わんこのグラスにワインを注いでやった。
 そして、結局その夜は酔いつぶれたわんこを自室に帰すことは出来なかったし、次の日もその次の日もわんこは酔いつぶれて僕の部屋に泊まることとなってしまった。(続く)



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Posted on 2009/08/27 Thu. 01:16 [edit]

ひとりにしないで 12 

 わんこの進路相談はストップしたまま週末を迎えた。
 ひさしぶりに指名の予約が入りわんこは客のところへドールレンタルされて行ったし、僕は休みのうちにわんこがドールを辞めて退寮する時に着る衣類などを買いに街中へと出かけて行った。
 食欲が無くて朝食抜いて出かけたら車移動中に車酔いしてしまったが、僕はなんとかクラブの送迎の車を降りるまでは我慢した。
「薫先生、帰りは夕方の5時でしたよね?予定が変わったら4時までにご連絡いただければ大丈夫ですから、ゆっくりしてきて下さい。せっかくの休日なんですから」
と店長は言ってくれたが、
「いえ、予定通り5時でお願いします。今日は買い物を済ませたらそのまま寮に戻りますから。寮に持ち帰る荷物がたくさんあるので」
と店長に答えた時は込み上げてくる嘔吐感と戦っている最中だった。すでに口の中はすっぱくなっていた。
 車を降りて一番近くにあるデパートに入り、トイレに駆け込もうとしたら、
「あっ、あの…」
というびっくりした品の良い感じのおばさまの声で僕は間違えてしまったことに気がついた。
「すみません!間違えました」
と謝って急いで男子トイレに駆け込んで個室で胃液を吐きだしたのだが、ちょっとばかし落ち込んだ。
 女として生きてきた間に女子トイレに入る習慣がついてしまっていたものだから、緊急時にはよく確認しないでとっさに以前よく入っていた方のトイレに駆け込んでしまう。
 以前から買い物によく来ていたデパートなんかだと身体が覚えている方の通路へと無意識のうちに曲がってしまっていたりする。女の姿で暮らしていた頃の条件反射がまだ抜けていない。
「女子トイレに入っても咎められないよりはまだましか?」
とつぶやいてみて苦笑してしまった。
 高身長なのと父親によく似た顔立ちのおかげでぱっと見は男で通用する姿をしているくせして、元が女であることが周囲にばれることを極端に嫌って見た目やしぐさに気を遣っている自分に嫌気がさす。
 女の振りして演技して生きていた頃とは逆に、今度は「普通の男」に見えるように気を遣いまくっている。ハードとソフトが合致しない状態で生まれ育ったんだから仕方がないことなのだろうけれども……。
「合致するハード(身体)にソフト(心)を再インストールするわけにはいかなくてハードの方を改造したんだから、元々ハードとソフトが合致する状態で生まれてきた人たちとは違っていて当然だ」
と自分自身を納得させるために何度も口にしてきた言葉をまた口にしてしまった。
 逃げでもあきらめでもない。
 だけど、現状受け止めて生きていくにはそう思うしかない。
 しばらくトイレの個室内で休憩したら、
「何かさっぱりしたものでも食べとかないとまた吐くかもな…」
と思い何を食べよう?と考えながら男子トイレを出た。(続く)



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Posted on 2009/08/30 Sun. 01:26 [edit]

ひとりにしないで 13 

「随分と買い物なさったんですね」
と僕が両手に持っていた複数あるデパートの紙袋をチラリと見た店長にそう言われて、
「あ…自分の買い物もあるので、荷物多くなっちゃったんですよ」
とあわてて言い訳したものの、実際のところはほとんどわんこの衣類だった。
 クラブ卒業時に身につけて行く物とは別会計にしてあるが、通常のドールの卒業時に用意してやる衣類と比べると多過ぎるのは自分でもわかってはいたけど買わずにいられなかった。余計に買った分は当然僕の自腹だ。
 寮に戻ってから橘さんには買った衣類を見せに行った。
 サイズがちゃんと合っているかが心配だったからだ。
「薫先生ったら、随分と買い込んで来たんですねぇ」
とクスクス笑っていた橘さんの笑い声は、僕がデパートの包装を破り、箱を開けて見せたら止まった。
「喪服…ですか?」
 黒いスーツと黒いネクタイを見て橘さんはそうつぶやいた。
「父親が亡くなったそうです。葬儀などはどういうことになっているのかわかりませんが、必要でしょうから。こういう支度をしてくれるような身内もいないようですし」
「そう…ですね」
と言った後、橘さんは無言で考え込んでいたが、黒い靴下、黒い皮靴、ネクタイピン、数珠の類を箱から出して並べたら、
「まさかそれ全部、薫先生が自腹で買ったとか言いませんよね?」
としばらくしてからそう言った。
「クラブの通常のドールの卒業時の支度分以外は、僕の自腹です。経費で落とすわけにいかないでしょう?」
「なんで先に相談してくれなかったんですか?店長にかけ合って香典代わりにそれぐらい出させたのに!」
 僕が自腹で買ってきたことを話したら橘さんに怒られた。
「ちょっと待ってて下さいね」
 エステルームの奥にあるプライベートルームへ引っ込んだ橘さんは戻ってきたら、
「これは私からの香典代わりです。薫先生が今日買って来た自腹の衣類の代金の足しに薫先生が受け取って下さい。店長からはそれなりの対応をしていただくようにお願いしておきましたから」
と封筒を強引に手渡してきた。中身は現金だろう。
「いえ…別に僕が勝手に用意しただけなんで…」
とその封筒を返そうとしたが、
「そんなことになっていたとわかっていたら、私もそれぐらいの支度してあげたかったんです!それなのに…ずるいわ!薫先生一人でカッコつけちゃって」
という拗ね気味な橘さんの言い様に絶句して、
「わかりました…じゃあ、NAOにはドール卒業時に着る服以外は『橘さんと僕からの餞別』とでも言っておきます」
と渋々橘さんからの封筒をポケットの中に収めた。
 しかし、その時レンタル中のわんこが酷い目に合っているとは僕は思ってもみなかったわけで、戻ってきた時いつものわんこと様子が違っていたことは想定外だった。(続く)



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小説「僕のアニキはサイボーグ」菊池乱

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「僕のアニキはサイボーグ」は人の生死について菊池なりに考えてみたSF作品です。先日可決成立した改正臓器移植法は「脳死は人の死」ということを前提として来年施行に踏み切るそうです。それについて皆様はどう思われますか?

Posted on 2009/09/22 Tue. 19:40 [edit]

ひとりにしないで 14 

「そうですか…すぐ行きます」
と内線電話の向こうの橘さんにそう答えると、僕はすべてのレッスンや講義を終えて自室に戻っていたが、医務室めがけて走りだした。
 長いリノリウムの廊下を走り抜け、職員用のエレベーターで医務室のある階にたどりつくまでの間最悪な気分に陥っていた。
 橘さんから聞いたレンタルから戻ってきたわんこのケガの状態的にどんなプレイで責め立てられ、嬲られたのかくらいは想像出来てしまったからだった。わんこがされたことは…プレイとは言い難かった。SMプレイというよりもむしろ拷問だの暴力の類だった。
 通常は、消えない傷痕や火傷痕が残らないようなプレイであれば、ドールはSMプレイOKということにはなっている。が、治療しても完治しないような痕や障害が残るようなプレイ、及び命にかかわるような危険行為は規約違反とされている。
 クラブ側としては、大事な商品をキズモノにされては困るからである。
 特殊な存在であるドールは大量生産出来ないから、そうそう簡単に替えはきかない。
 クラブの方ではケガの程度によって客に慰謝料請求したり、違約金請求したりしているが、今回のは慰謝料以外に違約金請求しなければならないだろう。
 息を整えてから医務室へ入って行ったら、
「ワクチンや足りない薬品類を取りに一度病院へ戻りますから、その間に洗浄お願いしますね。傷口に擦り込まれている土砂をボディブラシかたわしででも除去するように大量の水で洗い流して下さい。破傷風には消毒は無意味ですから」
と聞きなれたここの嘱託医である女医の声が聞こえてきた。
 医務室から出て行こうとした女医は、出入口付近で立ちつくしていた僕をちらりと見ると、
「ちょうどよかった。適任者が来てくれて…洗浄お願いしますね。泣きわめいても押さえつけて傷口えぐるようにしてしっかり洗ってあげないと、あの子破傷風で死んじゃうかもしれませんからね」
と女医は言った。
 このドS女医が!僕も人からドSと呼ばれる変態だが、こいつは性格にも問題あるに違いない。
 わんこの生死がかかっているとまで言われたら、泣いて暴れて助けを求めて懇願してきても、押さえつけて容赦なく傷口えぐるようにしてでも洗浄してやるしかないじゃないか?
「薫先生、来ていきなりであれなんですけど…これから洗浄お願いします!店長と二人で介護用のバスルームでNAOちゃん洗ってあげて欲しいんです。傷口にまだ土砂が入り込んでる状態なので……」
と青い顔して言う橘さんについて行ったら、既に店長がパンツいっちょでわんこを浴槽に入れていた。
 イマドキめずらしい白ブリーフだったが、店長はMなのでまあある意味正装だな…と僕は思ったりしていた。
 どうやら今意識が無いようでわんこは目を閉じたままだった。
 僕は靴と靴下を脱ぎ、ズボンの裾をまくり、シャツの袖を肘上までまくり上げたら、
「新品のボディブラシと歯ブラシありますか?」
と橘さんに訊ねた。
「ありますけど…なんで歯ブラシがいるんですか?」
「細かい傷に入り込んでる土砂は歯ブラシの方が除去しやすいんです」
「あ、そうですよね!すぐ持ってきます!!」
 橘さんは、急いで備品庫の方へ向かって走って行った。
 僕は浴槽のぬるま湯に浸かっているわんこのケガの状態を確認し始めた。傷は浅いが擦り傷が多く、傷口には土砂が入り込んでいる状態で見るからに痛そうだった。青黒く変色している箇所も何ヶ所もあった。おそらく客に殴る蹴るされたのだろう。顔も腫れている。
 鋭利な刃物で切られた切り傷よりも、意外とこういう擦り傷の方が痛かったりする。そこにろうそくでもたらしたのだろう。火傷で水ぶくれになっているところもある。
 火傷のレベルとしてはいずれも1度の火傷。ダメージくらってるのは表皮であって真皮は無事だろう。火傷による細胞壊死の心配はなさそうだ。
 が、普通の野外プレイではこんな風に傷の中に土砂が入り込むことがないことを僕は知っている。
「これはひどいですね。故意に傷口に土砂を擦り込んでいる。的確な治療をせずに放置すれば破傷風で死ぬ可能性もあるというのに……」
と怒りを抑えられずにそう僕が言ったら、
「そうですね。傷自体は浅いですから、治療すれば傷痕は残らないはずなのですが、お客様がこのプレイをしてから三日経過しています。破傷風の潜伏期間のことを考えるとこれから発症する恐れはあるわけで、処置が間に合わなかったら最悪の事態もありえたわけです。慰謝料と違約金はしっかり請求しますよ。これじゃドール卒業するまでの間、もう客は取らせられませんからね」
と店長は憤慨した口調でそう言った。
 店長が怒っているのは、クラブの商品であるわんこがドール卒業するまでもう客を取らせられないような状態のキズモノにされてレンタルから返却されてきたことに対してだろう。
 橘さんが持ってきたボディブラシと歯ブラシを使って、店長と二人がかりでわんこの傷口に入り込んでいる土砂の除去作業をしている間、
「ぎゃーーーっ!イタイ!いたいっ!やめて!やめてーーーっ!」
と目を覚ましたわんこは悲鳴をあげながら涙と鼻水を垂れ流していたが、店長は痛がって暴れるわんこを押さえつけていたし、僕は傷口を念入りに洗浄していた。ボディブラシや歯ブラシで傷の中に入り込んだ土砂を除去すべく傷そのものをゴシゴシ擦ってやっていたのである。
 わんこの方は洗浄の間は、生き地獄だったと思う。こういった傷口の洗浄作業は、病院なら局部麻酔を打ったりする。それを一切麻酔無しで体中にある傷の洗浄をやられたのだから、おそらく失神ものの痛さだったのではないかと思われる。
 その後、裏表しっかり洗い残しが無いか確認してからは、浴槽からt溜め湯を抜いてしばらくの間シャワーを浴びせ続けた。
 破傷風菌は通常地中で芽胞という形で土壌に広く分布している。これは消毒液では殺菌できない菌で、人間の方が死んでしまうほどの高温加熱しなければくたばらない非常に熱に強い厄介なヤツでもある。
 とりあえずの処置としては、傷口をよく洗浄して大量の水で洗い流すくらいのことしか出来ない。
 あとはワクチンに頼るしかないわけなのだが、もしも発症してしまっていたとしたら集中治療室で治療出来る病院へ入院させて治療を受けさせた方がいい。
 しかし、ここのクラブの特異性から入院させるのはどこの病院でもいいということはない。店長はいったいどうするつもりでいるのだろう?あまり外部の医療機関は使いたくはなさそうなのだが……。
 浴槽から上げて、シャワーで仕上げのすすぎをしてからタオルで拭いて、前開きのネグリジェを着せてやったが、泣き喚き疲れたわんこはぐったりとしていた。
 これでは、僕一人では無理だっただろう。
 店長がわんこの体を支えたり押さえつけていてくれなかったら、洗ってやることも困難だった。
 医務室のベッドに連れて行き寝かせた後、
「何か食べるか?喉は乾いてないか?」
と訊ねてみたが、わんこは首を横に振っただけで目を閉じてしまった。
 眠ったわけではないようだが、今は話もしたくないのだろう。
 身支度を整えた店長は、
「それでは、私はこれからお客様のところへ行って来ますので、後のことはよろしくお願いします」
と橘さんと僕にそう言うと医務室から出て行ってしまった。
 早速、違約金と慰謝料の話をしに行ったのだろう。
 入れ違いでここの嘱託医である女医が戻ってきた。
「現時点では発症はしていないようなので、破傷風トキソイドワクチンの接種をしておきます。これは二週間後以降にもう一度打たなければ免疫がつきません。それ以前に発症した場合は集中治療室の設備がある知人の病院へ移します」
と女医は説明し、わんこの腕に破傷風ワクチンの注射を打った。
「先生、今夜は泊って行っていただけるんですよね?」
と橘さんが不安そうにそう言ったら、
「申し訳ないのですが、明日は朝から病院の方の通常診療がありますので…」
と女医は宿直は無理であることを伝えてきた。
「あ、カテーテル入れて行きますけど、薫さん、出来ましたよね?というか導尿得意ですよね?看護師資格持ってないのが不思議なくらいに」
とにこにこしながら僕の顔をのぞき込んで言うのはやめて欲しい。
 医療関係者や自己導尿を必要としている患者やその介護者でもないのに、導尿得意、カテーテルならまかせろって状態であるということは、SMプレイで医療プレイを得意としていることがばればれなのである。
「しばらく安静にしておいた方がいいので、カテーテルの消毒と交換お願いしますね。傷の痛みを訴えてきたら、座薬入れてあげて下さい。鎮痛剤の多用は避けて下さい」
といとも簡単に素人にお願いしてしまうこの女医は、僕がまだ女の姿でSMクラブの女王様してた頃、同じ趣味のSMサークルに参加していたので、僕の腕前は知っている。
 こんなんでいいのか?と疑問に思いながらも、
「ゲイは身をたすくって本当ですね~」
などとふざけたことを言いながら女医が帰って行くのを僕はうんざりしながら見送った。
 後に残された困った顔した橘さんが、
「夜間の付添いどうしましょう?ついていてあげたいんですけど、私、カテーテルは無理です~」
と言ったものだから、
「夜は僕が付添いしますし、昼間も空き時間に様子見に来ます。レッスンや講義中は何かあったら内線で呼び出して下さい」
と言ってしまった。
 その日から、わんこの看護の日々が始まった。(続く)



 
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Posted on 2009/09/26 Sat. 06:06 [edit]

ひとりにしないで 15 

「あれ?これは…血だよな?」
 朝、わんこがまだ眠っているうちにカテーテルを一度そーっと抜いて見て異変に気がついた。
 あわてて導尿バックを確認してみたが、導尿バックの中に溜まっている尿には血尿の特徴は見られない。
 カテーテルの洗浄をする前にティッシュで拭いてみて鮮血が付着したのを確認した僕は、まだ朝早く病院の方は開いてはいない時間だったものだから、ここの嘱託医である女医の携帯の方に電話した。
「もしもし、岡真奈美さんですか?」
とわざとフルネームをイントネーション変えて言ってやったら、
「はい、岡ですが…薫さん、その言い方やめて下さいません?」
という機嫌の悪そうな女医の声が電話越しに聞こえてきた。
 あの女医がフルネーム呼ばれるのを嫌う理由は、イントネーション変えて言うと「オカマな身」になるからである。もちろん、さっき僕が言ったのはそっちの方である。
 これくらいの嫌がらせはしてやらねば腹の虫がおさまらない。
 女医の苦情は無視して、
「あんた、昨日尿道から出血あること言わなかっただろ。内部に傷あるんだろ?」
と問い詰めた。
「あ、気がついちゃった~?さすが、薫ちゃん!」
と言われて今度は僕の方がむっとした。
 さっきの仕返しに僕が「ちゃん」付けで呼ばれるの大嫌いなの知っててわざと「ちゃん」を強調して言いやがったのだ。
 しかし、今電話しているのは嫌がらせの応酬のためではなく、わんこのケガの状態の確認のためなので、こみあげてくる怒りをぐっと抑えた。
「前部尿道からの出血がある。まさかあんたがカテーテル挿入しくじって傷つけたわけじゃないよな?返却された時はもうあの状態だったんだろう?飲み薬で処方されていた抗生物質は破傷風予防のためだけじゃないんじゃないのか?それに軽い精神安定剤と睡眠導入剤も出てたし…」
と矢継ぎ早に言いかけていた僕の言葉を、
「返却時の検査で前部尿道内に傷を負っている状態であることはわかってました!私のミスではありません。私、これでも泌尿器科の専門医なんですけど?」
ともの凄く怒っているのを抑えながらしゃべっていそうな女医が遮った。
「あの傷はど素人が痛めつけるのを目的として異物挿入やったからです。自分の欲しい答えが引き出せないからって、拷問かけるなんて最低ですけどね。調教出来ない自分がおバカさんなのに気づいてないバカって救いようがありませんね」
という皮肉たっぷり風味な女医の説明に、
「やっぱり、拷問か…何が目的だったんだ?」
と僕はつぶやいた。
「ドール卒業後の愛人契約の話に応じなかったもんだから、拷問して無理矢理『イエス』と言わせようとしたらしいわよ、例のバカ客。だけど…あの子もおバカよねぇ、『好きな人がいるからお断りします』なんて客怒らせるような断り方して」
 吐き捨てるようにして女医がそう言うのを聞いた僕は何も言えなかった。
 たぶんわんこのレンタル返却後の検査時に、女医が客に何をされたのかを吐かせたのだろうとは思っていた。店長が慰謝料とかの件で話をしに行く前に、ある程度、レンタル中に行われた行為の内容とケガの状況把握が必要だったから。
「余計なこと言うんじゃないわよ?」
「何を…だ?」
「今、私が話したことは訊かなかったことにしてしらんぷりしてなさいってこと!」
「…どうして?」
「あの子が拷問された理由を一番聞かれたくないのは、あんただからに決まってるでしょ!!」
 なぜに僕はこんなに女医に怒られているのだろう?わんこの尿道内からの出血確認して、昨夜それについての説明をして行かなかった女医に抗議の電話をしたはずだったのに……。
「幸い、店長はあんたがてんで相手にしてないものと見ているからセーフラインだけどね。あれだけ露骨に恋する乙男してるあの子見てて、あの子が『好きな人』が誰なのかに気づいてない関係者なんかいないんだから!」
 女医の言葉がグサグサ刺さる。さっきから胃がキリキリと痛み始めていた。
 僕は見て見ぬふりして知らぬ存ぜぬで、わんこが今回どうしてこんな目にあったのかは聞いてはいけないってことなのか?気になってしょうがないのに……。
 昨日から怒りと悔しさで、うっかり悔し涙がこぼれそうになることがある。
 出来ることならわんこをこんな目に遭わせた客のところに報復に行きたいくらい僕は心底腹を立てていた。
 けれども、今僕に出来ることはわんこの看護だけなのか?
「なるべく、ついててあげなさいよ。あの子も今回はかなり精神的にまいっちゃってるから」
と忠告してきた女医に、
「わかった」
とだけ言って電話を切った。(続く)




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Posted on 2009/09/28 Mon. 04:15 [edit]

ひとりにしないで 16 

 どうしたらいいんだろう?
 昨夜からわんこは僕と会話しようとはしない。
 食欲も無くて食後薬を飲ませる前に用意した食事もほとんど残していた。
 僕は…わんこのために何をしてやれるのだろう?
 電話室を出て医務室へ戻る間、僕は鬱々とした気分に陥っていた。
 突然、
「ぎゃーーーっ!」
というすさまじい悲鳴が聞こえてきて、あわてて医務室へ駆け込んだが、わんこの姿はベッドの上にはなかった。
 もしやと思って医務室内にあるトイレをのぞいて見たら、便器の前で尻もちついてるわんこがいた。
「イタイ、イタイ!しみるーっ!チンチンからタバスコ出たーーーっ!!」
と騒ぎながらも前屈みになって前を押さえていた。
 洋式便器をのぞいたら赤い尿が溜まっていた。見事な血尿だ。排尿時に閉じかけていた尿道内の傷が開いたのか?
 排尿時に尿に含まれる塩分などが尿道内の傷にしみて強烈な痛みと熱さを感じているのだろう。
 それにしても、これを「チンチンからタバスコ出た」と表現するとはな…言い得て妙でちょっとだけ笑ってしまった。
 わんこの方は顔面蒼白になってガタガタ震えていたが……。
「洗浄したら痛くなくなるからちょっと待ってろ!」
とわんこに言うと消毒セットと滅菌蒸留水を入れた針のついていない注射器を取りに行ってからトイレへ戻った。
「消毒するから手をどけろ」
と無理矢理わんこの手を患部からどけさせて、消毒用の綿球をピンセットでつまんでちょんちょんと外部尿道口を消毒すると、注射器で滅菌蒸留水を注入してやった。
 それを排出させてまた新たに滅菌蒸留水を入れてやり、排出させるといったことを繰り返したら、 
「もう痛くないみたい?」
とわんこが言ったので、
「ベッドに戻れ。カテーテル入れてやるから。尿道内の傷が治るまでは、排便の時以外はトイレに行くな」
と僕が言ったらなぜかわんこは赤くなった。
 ベッドに寝かせてめんどくさい消毒滅菌をやってたら、わんこのモノは勃ってしまった。
 勃起してない方がカテーテルは入れやすいんだけどなぁ…と思いながらも、単なる生理現象と捉えて僕は黙々とカテーテル挿入をしていった。
 途中、痛そうな顔はしたものの膀胱内までカテーテル挿入完了してしまったら、わんこはほっとした顔をしてたから、大丈夫だったのだろうとは思ったが、
「痛いところはないか?」
と確認したら、わんこは、
「あっちもこっちも痛い」
と答えた。
 そりゃあそうだ。あれだけの傷や火傷を負っていれば、体だって痛むに決まっている。塗り薬は塗ってあるが痛むだろう。
「どこが一番痛い?」
と訊ねたら、
「ここ…かな?」
とわんこがネグリジェの上から胸のあたりを指したから脱がせてみたら、火傷している箇所だった。
「日本では保険適用外の治療法だが、痛みの引きは早いし治りも早い方法がある。匂いがあるから好き嫌いはあるかもしれないが、どうする?試してみるか?」
「痛いのおさまるならなんでもいいからお願い!」
と僕の提案に対してわんこは即答した。
 よほど痛みが気になるのだろう。
 自分用の医療セットを持って来て、中から小瓶を取り出すと僕は適当にわんこの火傷の上に原液のまま振りかけてやった。
「なに!この匂い?」
 匂いにびっくりしたわんこはそう訊いてきた。
「ラベンダーの精油だ。日本では原液塗布は推奨してはいないが、火傷は品質の確かな真性ラベンダーの精油を塗って乾かして治療していくと治りは早いし痕も残りずらい。鎮静作用によって痛みも抑えられるしな」
と説明してやったら、
「ん~、なんとなく痛いのおさまってきたような気がする」
とわんこは言った。
「そうか…じゃあ、朝食取ってくる」
 アロマテラピー効果で気分も落ち着いてくれればいいんだが…そう思いながら、僕はわんこと自分の分の朝食を取りに配膳エレベーターへと向かった。
 昨夜のわんこはまるで悪夢でも見ているかのようにひどくうなされていた。
 たぶん、精神安定剤と睡眠導入剤が出ていなかったら眠れなかっただろう。
 拷問されたのがきっかけになってPTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病などになって欲しくはないな…と僕は思っていた。
 けれども、寮に戻ってきてからわんこの笑顔を僕はまだ一度も見ていない。
 なぜこんなにも胸が苦しいのだろう?
 いつもへらへら笑ってたやつが笑わないというだけのことが、どうしてこんなにもつらく思えるのだろう?(続く)




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Posted on 2009/09/30 Wed. 04:20 [edit]

ひとりにしないで 17 

 ギリッギリッギギー、ギギギー……
「歯ぎしりなんかしたことなかったのに…まさか…」
 わんこの歯ぎしりに僕は怯えていた。
 こんなこと普通の状態なら、どうってことないことなのに、破傷風発症の恐れがあるわんこの場合は歯ぎしり一つも不安要因となったからだ。
 わんこのレンタル返却から二日目の夜。
「発症初期段階の歯ぎしりなんかじゃないよな?偶然だよな?」
 不安な思いでいっぱいになってしまった僕はわんこの付き添いをしていたが眠れなかった。
 ずっとベッドサイドの椅子に腰かけてわんこの手を握っていた。
 そして、祈った。
「破傷風ではありませんように…破傷風ではありませんように…たまたま歯ぎしりしてるだけでありますように……」
と祈るようにぶつくさひとりごとをつぶやき続けていた。
 とうとう朝まで一睡も出来なかった僕は、寮の開錠時間になったらすぐに電話室へと走った。
 ここの嘱託医である女医の携帯に電話したのだが、
「早く来てくれ!歯ぎしりしてたんだ!早く…早く…」
と繰り返すばかりで、
『首筋の強張りは?寝汗は?薫さん、答えて!』
と女医に言われても、
「早く…早く来て…早く診てやってくれ!」
としか言えなかったし、受話器を握った手の震えは止まらなかった。
『わかりました!すぐ行きますから、とりあえず、深呼吸でもして、あなたは落ち着いて下さいね。そんなに取り乱してるところをあの子に見せたりなんかしたら、よけい不安にさせてしまいますからね』
とため息混じりにそういう女医の声が電話越しに響いてきた後、僕は電話を切ってから、何度も何度も繰り返し深呼吸をした。
「わんこが破傷風で死んでしまったらどうしよう?」
 そう思うと夜が明けるまでが途方もなく長く感じられて気が変になりそうだった。
 たとえ破傷風発症したとしても、入院して病院で治療を受ければ死ぬことはないはずなのに、なぜか動揺しまくっていた僕はこのままわんこが死んでしまうのではないかと不安で不安でたまらなくなってしまっていた。(続く)




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Posted on 2009/10/15 Thu. 23:01 [edit]

ひとりにしないで 18 

 歯ぎしりは偶然だった。
 診察の結果、現段階では破傷風発症はしていないとのことだった。
 しかし、まだ、破傷風の潜伏期間中であるから油断は出来ない状態ではある。
 二度目のワクチンを打つまでの間に発症したら、入院治療させることになる。
「薫さん、あなた寝てないでしょう?夜間はカテーテル入れっぱなしにしておいて問題ありませんから、ちゃんと寝ないとあなたの方が倒れますよ!」
と帰り際に女医に言われたが、心配で心配で眠れやしない。それ言ったら睡眠導入剤でも出されそうな気がしてたから、曖昧に微笑んで、
「二、三日やそこら眠らなくたってどうってことはない。適当に仮眠取りますから大丈夫ですよ」
と僕は答えた。
「無理しないで下さいよ…って言ってもどうせあなたは聞かないんでしょうけど、橘さんと交代して仮眠くらいは取って下さいね」
と女医は念を押して帰って行ったが、カテーテル抜いても差し支えがないところまで尿道内の傷がふさがらないことには、またわんこはタバスコおしっこ出して泣くことになる。
 意図的にプレイとしてやって泣かすならいい。が、治療中のケガ人にそれやるほど僕は鬼にはなれない。鬼畜じゃなくて、あくまでサディスト止まりだから……。 
 わんこはクラブの寮に戻って来てからはまったく笑っていない。
 無表情なわんこの顔は本来の美貌を際立たせてはいるものの、大口開けてゲラゲラ笑うわんこの顔の方が僕は好きだった。
 きれいなだけの人形などつまらない。
 喜怒哀楽はっきりしていてクルクルとめまぐるしく表情が変わる、そんな人懐っこいわんこだからかわいかったのだ。 
「なぜ笑わない?いつもみたいに大口開けて笑えよ…おまえが笑えないのは僕のせいなのか?僕はそばにいない方がいいのか?」
 眠っているわんこにそう問い掛けてみても仕方がないのに、起きてる時には言えない言葉がこぼれ落ちる。それと同時に不覚にも涙までこぼれ落ちてしまった。
 夜間は睡眠薬を飲んでぐっすり眠っているから、僕が何を言おうが、泣こうが、わんこが気づくことはないだろう。
 だけど、笑わないわんこと一緒にいるのがそろそろつらくなってきた。
「橘さん、レッスン終わってから施錠時間前までの間仮眠取りたいので、NAOについててもらっていいですか?」
 僕はとうとう橘さんに交代お願いしてしまった。
「ええ、いいですよ。薫先生顔色悪いし、目の下にくまも出来ちゃってますし…もっと早く交代すればよかったのに、ごめんなさい」
と申し訳なさそうに言う橘さんには非は無い。カテーテル挿入は恐怖感やら不安感やらで苦手意識を持つ人が多いのはわかっていたから、橘さんに夜間の付き添いは頼まなかったのだ。
 もしも、悪夢にうなされ暴れたわんこからカテーテルがはずれたりなんかしたら、橘さんには対処出来ないだろうし、夜間施錠中は僕も自室から医務室まで駆けつけることが出来ない。
 苦肉の策で施錠の時間までの仮眠でなんとかすることにした。
 起きている間笑わないわんこと一緒にいるよりは、眠っているわんこの付き添いをしている方がまだ気分的にはラクなような気がしたからだった。
「どうして、わんこが笑わないだけでこんなにも胸が苦しくなるんだ?」
 橘さんに交代してもらい、一人で自室で食事をとり、シャワーを浴びてから仮眠を取るために潜り込んだ布団の中で、僕はそうひとりごとをつぶやいてしまった。
 けれども、答えはみつからなかった。
 こんな想いを抱いたのは今まで一人しかいなかった。だけど、あの人とわんこを同列に置いて考えることなんかは出来なくて、僕は自分の中にあるこの感情を否定し続けていた。(続く)




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Posted on 2009/12/30 Wed. 23:54 [edit]

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